「今が売り時です」と言われたときに、立ち止まってほしい理由
不動産について考え始めると、比較的早い段階で耳にする言葉があります。
それが、「今が売り時ですよ」という一言です。
テレビやインターネットでも、
「相場が上がっている」
「今後は下がる可能性がある」
といった情報が流れ、
「今動かないと損をするのではないか」
そんな気持ちになる方も多いのではないでしょうか。
この言葉自体が、間違っているわけではありません。
不動産市場の話として見れば、「売り時」と言えるタイミングは確かに存在します。
ただ、ここで一度だけ、立ち止まって考えていただきたいのです。
その“売り時”は、本当にあなた自身のタイミングでしょうか。

「売り時」という言葉の正体
不動産会社が言う「売り時」とは、
- 取引が活発
- 価格が安定、もしくは上昇傾向
- 買い手が見つかりやすい
といった、市場全体の状況を指しています。
これは、あくまで数字と統計の話です。
一方で、住まいをどうするかという判断は、
- 家族構成
- 年齢
- 体力
- これからの暮らし方
といった、その人の人生の話です。
この二つは、似ているようで、実はまったく別のものです。
山科区でよくある、迷いの始まり
山科区のある住宅街で、こんなご相談がありました。
築40年ほどの戸建てにお住まいの60代の方。
お子さんはすでに独立し、家は夫婦二人には少し広め。
階段の上り下りが、少しずつ負担になってきた頃でした。
「今すぐ売りたいわけではないんです」
「ただ、このままでいいのか、考え始めたくて」
そんな気持ちで不動産会社に相談したところ、
「今は相場がいいですよ」
「数年待つと、条件は悪くなるかもしれません」
と言われたそうです。
その瞬間から、気持ちが一気に揺れ始めました。
- 今売らないと損をするのでは
- 判断を先延ばしにして、後悔しないだろうか
- でも、まだ心の準備ができていない
多くの方が、ここで同じような迷いに入ります。
焦りが生む、判断のズレ
「売り時」という言葉が厄介なのは、人を急がせてしまう力があることです。
- 今決めないと
- 今動かないと
- 今を逃すと
こうした気持ちが強くなると、本来じっくり考えるべきことが、後回しになります。
たとえば、
- 本当はこの街で暮らし続けたいのか
- 住み替えるなら、どんな環境が合っているのか
- 家を手放したあとの生活を、どう思い描いているのか
これらは、急いで決めるものではありません。
ですが「売り時」という言葉をきっかけに、“考える前に決める”方向へと気持ちが動いてしまうのです。
「売り時の説明」が悪いわけではない
ここで大切なのは、「売り時ですよ」と説明すること自体が悪いわけではない、という点です。
市場の状況を伝えるのは、不動産会社として自然なことです。
それは、ひとつの情報に過ぎません。
問題になるのは、その情報が、そのままあなたの結論になってしまうことです。
売り時は、「判断材料のひとつ」。
判断のすべてではありません。
人生のタイミングは、人それぞれ
子育てを終えた後の住まいは、とても個人的な問題です。
- まだ元気なうちは、この家で過ごしたい
- もう少しコンパクトな暮らしに移りたい
- 今は何も決めず、数年後に考えたい
どれも、間違いではありません。
にもかかわらず、「今が売り時」という言葉が入ると、それらの選択肢が急に見えなくなることがあります。
住まいの判断は、市場の都合よりも、自分たちの生活の都合を優先していいのです。
「まだ決めなくていい」という考え方
不動産の話をすると、「いつまでに決めないといけないのか」という不安を抱く方が多くいらっしゃいます。
ですが、ほとんどの場合、「今すぐ決めなければならない」理由はありません。
- 少し考える時間を取る
- 夫婦でゆっくり話し合う
- 暮らしのイメージを整理する
こうした時間は、決して無駄ではありません。
むしろ、その時間があることで、後から「この判断でよかった」と思える可能性が高くなります。
売り時よりも、大切なこと
不動産の価値は、数字で表せます。
でも、暮らしの価値は、数字では測れません。
- 落ち着く
- 無理がない
- 納得できる
こうした感覚は、相場表には載っていません。
だからこそ、「今が売り時です」と言われたときほど、一度、深呼吸して考えてみてほしいのです。
これは本当に、自分たちの人生のタイミングだろうかと。
次回予告
次の記事では、
「大きな家=良い資産」と思い込んでしまうことで起こりやすい判断ミス
について、伏見・山科の実例を交えながらお話しします。


