実家をどうする?空き家リスクと“親の家問題”の乗り越え方
他人事ではない「親の家問題」
ふと気づけば、親も高齢になり、自分たちも50代に差し掛かる。そんなとき、多くの人の心に浮かび上がってくるのが「実家」の存在です。たくさんの思い出が詰まった大切な場所。しかし、その実家が、近い将来、誰も住まない「空き家」になる可能性について、具体的に考えたことはありますか?
「親の家問題」は、テレビの中の話ではありません。親が亡くなったり、施設に入所したりした瞬間から、すべての子世代に訪れる現実的な課題です。
この記事では、空き家がもたらすリスクから、複雑な相続問題、そして未来に向けた具体的な選択肢までを一つひとつ丁寧に解説していきます。問題を先送りにするのではなく、家族で前向きに乗り越えていくための、確かなヒントがここにあります。

第1章:親の家が「空き家」になるという現実
子どもの頃の笑い声が聞こえてきそうな実家。しかし、その温かいイメージとは裏腹に、住む人がいなくなった家は、驚くほど早くその姿を変えてしまいます。まずは、空き家を取り巻く厳しい現実から見ていきましょう。
1-1. 全国で増加する空き家、京都市も例外ではない
親が暮らす実家が空き家になる。これは、日本全体が抱える大きな課題です。総務省統計局が発表した最新の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は過去最多の900万戸に達し、深刻な社会問題となっています。
そして、歴史と文化の街である京都市も例外ではありません。市の調査によると、市内には管理不全な状態の空き家が多数存在し、地域の景観や安全を脅かす一因として、対策が急がれています。
「いつか誰かが使うだろう」「いざとなれば売ればいい」——。そんな漠然とした期待のまま放置された家が、気づけば地域のお荷物になってしまうケースは、決して少なくないのです。
1-2. 「とりあえず放置」が招く、4つの深刻なリスク
空き家を放置することのリスクは、単に「家がもったいない」というレベルではありません。金銭的、物理的、そして精神的にも大きな負担となって家族にのしかかります。
- 想定外のコスト(金銭的リスク)
- 固定資産税・都市計画税: 誰も住んでいなくても、所有している限り毎年課税されます。
- 管理費用: 遠方に住んでいる場合、定期的な管理を業者に委託すれば、年間数万円~十数万円の費用がかかります。
- 修繕費・光熱費: ライフライン(電気・水道)を止めると配管の劣化が早まるため、基本料金がかかり続けます。また、台風で屋根が飛んだ、給湯器が故障したなどの突発的な修繕費も発生します。
- 建物の老朽化と倒壊(物理的リスク)人の住まない家は、換気が行われず湿気がこもるため、驚くべき速さで傷みます。シロアリ被害、雨漏り、カビの発生が進み、最悪の場合、地震や台風で倒壊・半壊する危険性も。そうなれば、近隣に被害を及ぼし、損害賠償問題に発展する可能性もあります。
- ご近所トラブルと防犯(関係的リスク)
- 庭の雑草や木の枝が隣家にはみ出す。
- 害虫や害獣(ネズミ、ハクビシン等)の巣になる。
- 不審者の侵入や放火など、犯罪の温床になる。これらは、これまで親が築いてきたご近所との良好な関係を一気に悪化させ、「管理もできない家の子」というレッテルを貼られてしまう“人間関係のしこり”を生む原因になります。
- 行政からの厳しい措置(法的リスク)特に危険性が高いと判断された空き家は、行政から「特定空家」に指定されることがあります。こうなると、固定資産税の優遇措置が適用されなくなり、税額が最大で6倍に跳ね上がる可能性があります。さらに、行政からの改善命令に従わない場合は、過料が科されたり、最終的には行政代執行による解体と、その費用の請求が行われることもあります。
「実家」は、放置した瞬間から思い出の場所ではなく、「負債」を意味する「負動産」に変わってしまうのです。
第2章:「相続」は“始まり”に過ぎない
「親の家問題」が本格的に動き出す最初のきっかけ、それが「相続」です。
「家族仲は良いから大丈夫」「お金の話は縁起でもない」——。そう思っていても、いざその時を迎えると、予期せぬ問題が次々と噴出します。相続はゴールではなく、問題解決のスタートラインに過ぎません。
2-1. なぜ相続で「もめる」のか?実家特有の難しさ
預貯金であれば法定相続分通りに1円単位で分けられますが、実家は物理的に分割できない「不動産」です。この「分けにくさ」が、トラブルの最大の原因となります。
- 「住みたい人」 vs 「売りたい人」: 兄弟の一人が「思い出があるから残したい、将来住みたい」と思っても、他の兄弟は「管理が大変だから早く売って現金化したい」と考えるなど、価値観の対立が起こりがちです。
- 「介護の貢献度」を巡る感情論: 「長男だから」「親の面倒を最後まで看たから」といった、法律では測れない感情的な対立が、話し合いを複雑にします。
2-2. 要注意!「共有名義」という落とし穴
とりあえず法定相続分通りに兄弟で共有名義にしておく。これは、問題を先送りにするだけで、最も避けるべき選択肢の一つです。
- 一人の意思では何もできない: 家を売却する、リフォームする、賃貸に出すといった行為は、共有者全員の同意がなければ行えません。一人でも反対すれば、話は全く進まなくなります。
- 相続が繰り返され、権利関係が複雑化する: もし兄弟の一人が亡くなれば、その持ち分はさらにその配偶者や子へと相続されます。会ったこともない甥や姪と、一つの家を共有する事態になりかねず、売却したくても同意を得るのがほぼ不可能になる「塩漬け不動産」が完成してしまいます。
2-3. 親が元気なうちに始めたい、最初の一歩
相続が「争続」になるのを避けるために最も有効なのは、親が元気なうちに意思を確認し、情報を整理しておくことです。
- 親の意思を確認する: 「この家を将来どうしたいか」をさりげなく聞いてみましょう。誰かに継いでほしいのか、売って老人ホームの資金に充てたいのか。親の想いを知ることが、家族の指針になります。
- 情報の整理: 家の権利証(登記識別情報)、固定資産税の納税通知書、購入時の契約書などがどこにあるかを確認しておきましょう。
- 専門家への相談: 司法書士や税理士、相続に詳しい不動産会社など、専門家に一度相談するだけでも、現状を客観的に把握し、取るべき選択肢を明確にすることができます。
第3章:「残す」「活かす」「手放す」後悔しないための3つの選択肢
さて、ここからは具体的に「親の家」をどうするか、3つの方向性についてメリット・デメリットを交えながら見ていきましょう。感情だけでなく、費用や手間といった現実的な視点で比較検討することが大切です。
3-1. 【残す】思い出と家を守るための管理
こんな方におすすめ:
- 強い愛着があり、手放したくない。
- 将来、自分や子どもが住む可能性がある。
- 管理費用を負担する経済的余裕がある。
主な管理方法:
- 自主管理: 定期的に実家を訪れ、窓を開けての換気、水道の通水、庭の手入れ、郵便物の確認などを行います。
- 管理代行サービス: 遠方に住んでいるなど、自主管理が難しい場合は「空き家管理サービス」を利用する手もあります。月額5,000円~15,000円程度で、巡回や簡易清掃、状況報告などを行ってくれます。
注意点:
維持管理には継続的なコストがかかります。「いつまで」「誰が」費用を負担するのかを、家族間ではっきりさせておく必要があります。
3-2. 【活かす】新たな価値を生むための活用法
こんな方におすすめ:
- 家を収益源に変えたい。
- 自分たちが住むために大規模な改修も検討している。
- 立地や家の状態が良い。
主な活用方法:
- リフォーム・リノベーションして住む: 自分たちのライフスタイルに合わせて間取りを変更し、二世帯住宅や終の棲家として移り住みます。
- 賃貸に出す: 周辺地域の賃貸需要が見込めるなら、リフォームして賃貸物件に。安定した家賃収入が期待できますが、初期投資や管理の手間、空室リスクも考慮する必要があります。
- その他の活用: 例えば、観光客の多い京都市内であれば「ゲストハウス(簡易宿所)」に改修する、地域のコミュニティスペースやシェアアトリエとして貸し出す、といった方法も考えられます。自治体の「空き家バンク」制度を利用して、移住希望者とのマッチングを探るのも良いでしょう。
3-3. 【手放す】未来の負担を軽くするための処分
こんな方におすすめ:
- 誰も使う予定がない。
- 管理の手間や費用が負担に感じる。
- 相続人で公平に財産を分けたい。
主な手放し方:
- 現状のまま売却(古家付き土地): 解体費用がかからない反面、売却価格は安くなる傾向があります。買主がリフォームして住むか、解体して新築することを想定します。
- 解体して更地で売却: 建物がないため買い手がつきやすいですが、数百万円の解体費用がかかります。また、家屋がなくなると固定資産税の優遇がなくなるため、売れるまでの税金が高くなる点に注意が必要です。
- 不動産会社による買取: 市場価格よりは安くなりますが、売却活動の手間なく、スピーディーに現金化できるメリットがあります。
知っておきたい制度:
相続した家を売却する場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例制度があります。税金の負担を大きく軽減できる可能性があるので、不動産会社や税理士に確認しましょう。
第4章:「親の家」を巡る、夫婦と家族の対話
ここまで様々な選択肢を見てきましたが、最も大切なのは「どの選択肢を選ぶか」のプロセス、つまり家族での対話です。この問題を一人で、あるいは夫婦だけで抱え込むと、必ずどこかで歪みが生まれます。
4-1. なぜ対話が必要なのか?感情と現実のギャップ
実家に対する想いは、兄弟姉妹それぞれで異なります。
- 「思い出がたくさん詰まっているから、絶対に売りたくない」(感情)
- 「遠方に住んでいて管理できないし、固定資産税も負担だ」(現実)
- 「親の介護で大変だった分、多くもらいたい」(感情)
- 「法律に則って公平に分割してほしい」(現実)
こうした一人ひとりの「感情」と「現実」をテーブルの上に出し、全員で共有しない限り、納得できる結論にはたどり着けません。対話は、このギャップを埋めるための唯一の方法です。
4-2. 家族会議で話すべきことリスト
話し合いをスムーズに進めるために、以下の点を議題にしてみてはいかがでしょうか。
- 【現状の共有】
- 親の意思や希望はどうなっているか?
- 家の資産価値(査定額)はどのくらいか?
- 維持管理にかかる年間コストはいくらか?
- 【未来の意思確認】
- この家に将来、誰か住みたい(使いたい)人はいるか?
- いる場合、それはいつ頃か?リフォーム費用は誰が負担するのか?
- いない場合、なぜ手放した方が良いと思うか?
- 【選択肢の検討】
- 「残す」「活かす」「手放す」それぞれのメリット・デメリットを全員で確認する。
- 誰が、どの役割(手続き、費用負担など)を担うのか?
すぐに結論が出なくても構いません。大切なのは、全員が当事者意識を持ち、対話を続けることです。
まとめ:未来を描くための「実家会議」を始めよう
「親の家問題」は、単なる不動産の問題ではありません。それは、家族の歴史と未来をつなぐ、大切な対話の機会です。
放置すれば「負動産」となり、家族関係にひびを入れる火種になりかねません。しかし、家族みんなで知恵を出し合い、前向きに向き合えば、親が残してくれた大切な資産を、全員が納得する形で未来へつなぐことができます。
この記事を読み終えたら、ぜひ、ご夫婦で、ご兄弟で、こう切り出してみてください。
「うちの実家、これからどうしていくのが一番いいかな?」
その一言が、「親の家問題」を前向きに乗り越える、希望に満ちた第一歩になるはずです。
──あなたにとって「実家」は、これからどうあるべき場所ですか?
参考文献・参考出典
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」
- 日本の空き家数やその割合に関する最新(2023年10月1日時点)のデータです。
- URL: https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/sokuhou/gaiyou.html
- 京都市情報館「京都市の空き家対策」
- 京都市における空き家の現状や、市の取り組み、相談窓口などがまとめられています。
- URL: https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000300411.html
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」
- 「特定空家」の定義や、行政措置に関する法的な根拠が解説されています。
- URL: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html
- 国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
- 相続した空き家を売却した際の、3,000万円特別控除の要件などが詳しく解説されています。
- URL: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

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