同居はできない。でも”つながる家”はつくれる——親との新しい関係
はじめに
「親が心配だけど、同居は難しい」——このような声を、50代のご夫婦からよく伺います。仕事もある、自分たちの生活リズムもある。でも、親の老いも無視できない。そんなジレンマを抱える世代が増えています。
内閣府の「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」では、子と同居や近居を希望する高齢者のうち、「同居ではなく近居したい」が32.8%と最も高く、次いで「同居したい、同居を続けたい」が23.2%という結果が示されています。つまり、完全な同居よりも「適度な距離感を保ちながらつながっていたい」と考える人が多いのが現実です。
そこで選ばれているのが、「セミ同居型住宅」「近居型住宅」と呼ばれる新しい住まいのかたちです。これは単なる妥協案ではなく、現代の親子関係における理想的な解決策として注目を集めています。
目次
- なぜ今「つながる家」が求められるのか
- セミ同居型住宅の基本的な考え方と種類
- 実際の設計事例と工夫のポイント
- 完全同居との違いとそれぞれのメリット・デメリット
- つながる家を実現するための実践的なステップ
- まとめ

1. なぜ今「つながる家」が求められるのか
高齢化社会の現実と家族構造の変化
令和3年現在、65歳以上の者のいる世帯数は2,580万9千世帯と、全世帯の49.7%を占めています。つまり、日本の約半数の世帯で高齢者の住まいや介護の問題が身近な課題となっているのです。
一方で、65歳以上の一人暮らし高齢者は急激に増加しており、平成27年には男性約192万人、女性約400万人に達し、高齢者人口に占める割合は男性13.3%、女性21.1%となっています。親世代の孤立化が進む中で、子世代としては「何かあったときに手助けできる距離にいたい」という思いが強くなっています。
現代の親子関係における価値観の変化
従来の三世代同居が減少している背景には、世代間の価値観の違いがあります。家族とはいえ、生活リズムや考え方といった価値観が異なるのは当然で、掃除の仕方や料理の味付けという細かい部分で日常生活を干渉されると、どうしてもストレスになってしまう場合もあります。
50代と80代では、起床時間、食事の時間、来客への対応、家事のやり方など、あらゆる面で生活スタイルが異なります。無理に同じ空間で生活すると、お互いがストレスを感じる結果になりかねません。
安心感と自立のバランスを求める時代
同居・近居する場合のメリットとして、「ちょっとした手助けが必要な場合に安心して過ごせる」が88.7%と最も高く、次いで「自立した生活ができなくなった場合に世話をしてもらえる」が43.9%となっています。
このデータから分かるのは、高齢者が求めているのは「常時の介護」ではなく、「必要な時に手助けしてもらえる安心感」だということです。これは子世代にとっても同様で、「いざという時に駆けつけられる距離」にいることで、お互いが安心できる関係性を築けるのです。
2. セミ同居型住宅の基本的な考え方と種類
セミ同居型住宅とは
セミ同居型住宅とは、親世帯と子ども世帯が同一の建物内で生活する住宅形態で、各世帯が一定の独立性を保ちながら暮らせるよう設計されている住宅のことです。完全な同居でも完全な別居でもない、「第三の選択肢」として位置づけられます。
主な3つのタイプ
完全分離型 玄関から始まり、キッチン、浴室、トイレ、リビングなど、すべての設備が世帯ごとに分かれているタイプです。建物は共有していても、生活はほぼ独立しています。
一部共用型 キッチンや浴室などの一部設備を共有し、リビングやダイニングは別々に設けるタイプです。必要に応じて交流でき、経済効率も考慮されています。
共用型(部分同居型) 主要な生活空間は共有しつつ、寝室など私的空間は分離するタイプです。日常的な交流を重視する家庭に適しています。
近居型という選択肢
同一建物内ではなく、「住居は異なるものの、日常的な往来ができる範囲」として、同一中学校区内程度(約6キロメートル以内、車で15分以内程度)に住む近居型も人気です。
敷地内に離れを建てる、隣接する土地に住宅を建てる、同じマンションの別フロアに住むなど、様々な形態があります。
3. 実際の設計事例と工夫のポイント
音とプライバシーへの配慮
セミ同居型住宅で最も重要なのは、音の問題とプライバシーの確保です。
効果的な音対策:
- 寝室と寝室の間に収納スペースを挟む設計
- 異なる生活音が重ならないよう、水回りの配置を工夫
- 防音性能の高い床材・壁材の採用
- 階段位置を調整し、足音が響きにくい動線設計
プライバシー確保の工夫:
- 玄関は完全に分離、または時間差で使用できる2WAY玄関
- 洗濯物干し場を世帯別に設置
- 郵便受けの分離と表札の独立表示
- 来客時に他世帯に迷惑をかけない動線設計
バリアフリー設計の重要性
親世代の将来的な身体機能の低下を見据えた設計が必要です。
推奨するバリアフリー要素:
- 段差のない住環境(室内・外構ともに)
- 廊下幅の確保(車椅子使用を想定した80cm以上)
- 手すりの事前設置または取り付け可能な下地補強
- 滑りにくい床材の採用
- 照明の充実(足元灯、人感センサー付き照明)
経済効率を考慮した共用設備
光熱費についても、部分的に共有することで効率的な利用が可能になり、総合的な生活費の削減につながります。
効率的な共用の例:
- 給湯設備の一元化(エコキュートの大容量タイプ)
- 太陽光発電システムの共同利用
- インターネット回線の一本化
- 駐車場の効率的な配置
4. 完全同居との違いとそれぞれのメリット・デメリット
セミ同居型のメリット
心理的な安心感 いざという時にすぐに駆けつけられる距離にいることで、お互いが安心して生活できます。夜間の緊急事態や体調不良時にも迅速な対応が可能です。
適度な距離感の維持 お互いのプライバシーを尊重した暮らしができるため、干渉しすぎることなく良好な関係を維持できます。
経済的メリット 土地代を2世帯で分担できるため、一世帯で住宅を建てる場合と比較して、土地取得費用を大幅に削減できます。また、一定の条件を満たす二世帯住宅では、小規模宅地等の特例を受けることができ、相続税の軽減効果が期待できます。
セミ同居型のデメリット
建築コストの増加 完全分離タイプが一番建築費の相場が高くなります。設備を2セット設置する必要があるため、通常の住宅よりも建築費用が高額になります。
設計の複雑さ 両世帯の要望を調整しながら設計する必要があり、通常の住宅設計よりも時間と労力がかかります。
将来の売却の難しさ 二世帯住宅はその特殊な住宅構造や売却価格の設定の問題から、売却しづらいというデメリットもあります。
完全同居のメリット・デメリット
完全同居のメリット:
- 建築コストが最も安い
- 日常的な支援や介護がしやすい
- 光熱費などの生活費を最も効率的に削減できる
完全同居のデメリット:
- プライバシーを守りにくい
- 生活リズムの違いによるストレス
- 来客時の気遣いや制約
5. つながる家を実現するための実践的なステップ
ステップ1:家族間での話し合い(1〜2ヶ月)
まず重要なのは、関わる全ての家族メンバーとの率直な話し合いです。
話し合うべき項目:
- 現在の生活スタイルと将来への不安
- 理想的な距離感と交流の頻度
- 経済的な負担分担の方法
- 介護が必要になった場合の対応方針
- お互いの譲れない条件と妥協できる点
ステップ2:住まいの選択肢の検討(1ヶ月)
家族の要望を整理した上で、具体的な住まいの形を検討します。
検討すべき選択肢:
- 既存住宅のリフォーム・リノベーション
- 新築での二世帯住宅建設
- 敷地内への離れの増築
- 近隣エリアでの近居物件探し
ステップ3:専門家への相談(2〜3ヶ月)
設計や法的な問題について、専門家のアドバイスを求めることが重要です。
相談すべき専門家:
- 二世帯住宅に実績のある建築設計事務所
- 税理士(相続税、贈与税関連)
- ファイナンシャルプランナー(住宅ローン、資金計画)
- 介護・福祉の専門家(将来の介護対応)
ステップ4:設計・施工(6ヶ月〜1年)
具体的な設計に入る際は、将来の変化も見越した柔軟性のある設計を心がけます。
設計時の重要ポイント:
- 段階的な改修が可能な構造の採用
- 用途変更しやすい間取り設計
- 介護対応への将来的な改修を見据えた下地工事
- メンテナンスの容易さを考慮した設備選択
ステップ5:生活ルールの確立(継続的)
住み始めてからも、状況に応じて生活ルールを調整していくことが重要です。
決めておくべきルール:
- 共用部分の使用方法と清掃分担
- 光熱費などの費用分担方法
- 来客時の事前連絡と配慮事項
- 緊急時の連絡体制と対応方法
- プライバシーに関する境界線の確認
まとめ
「同居はできない。でも、つながる家はつくれる」——これは現代の親子関係における新しい解決策です。完全な同居でも完全な別居でもない「セミ同居型住宅」や「近居」という選択肢は、お互いの自立性を尊重しながら、必要な時には支え合える理想的な関係性を実現します。
重要なのは、物理的な距離ではなく「心理的な安心感」と「適度な独立性」のバランスです。高齢者の88.7%が「ちょっとした手助けが必要な場合に安心して過ごせる」ことをメリットと感じているように、いざという時に助け合える環境こそが、現代の親子関係に求められているのです。
建築コストや設計の複雑さといった課題はありますが、長期的な視点で見れば、介護費用の軽減、相続税対策、そして何より家族の精神的な安定を考えると、十分に価値のある投資といえるでしょう。
「つながる家」という発想は、高齢化社会における新しい住まいのかたちとして、これからますます注目されていくことでしょう。あなたと親にとって、ちょうどいい距離感を見つけることから始めてみませんか?
参考文献・出典
- 内閣府「令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査結果」(2024年)
- 内閣府「令和5年版高齢社会白書」(2023年)
- 内閣府「平成29年版高齢社会白書」(2017年)
- 住宅金融支援機構「2023年度 フラット35利用者調査」(2024年)
- 国土交通省「令和6年度 住宅経済関連データ」(2024年)
- トヨタホーム「二世帯住宅とは?メリット・デメリット、費用相場も解説」(2024年)
- ヤマダホームズ「二世帯住宅とは?同居との違いやメリットとデメリットを解説」(2025年)
- アルネットホーム「二世帯住宅の種類と同居との違いやメリットとデメリットについて」

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